市場調査を任され、「データは集まったけど、ここからどうまとめたらいいの?」と悩んでいませんか?
市場調査のまとめ方は、単にデータをきれいに並べる作業ではありません。調査結果から次にとるべき行動のヒントを見つけ出し、関係者に「なるほど!」と納得してもらうための、とても大切なプロセスです。
この記事では、初心者マーケターの方でもわかるように、市場調査のまとめ方の基本ステップからレポートの構成、分析のコツまで、わかりやすく解説します。
市場調査のまとめ方とは?
市場調査のまとめ方は、単なるデータ整理ではありません。調査で得られた膨大な事実(ファクト)を、次の行動へつなげる、マーケティングにおいて非常に重要な工程です。
調査結果を「知見」に変える作業
集めたままのアンケート結果やインタビュー内容は、ただの「データ(素材)」です。これを分析し、「〇〇な傾向がある」という情報に変え、さらに「なぜなら〜」という背景や理由を加えることで、初めて知見(インサイト)となります。
調査結果をまとめるということは、この素材を知見に変える作業になります。
関係者の共通認識を作り、意思決定を後押しする
レポートは、上司や他部署のメンバーなど、調査に直接関わっていない人たちに現状を理解してもらうためのツールです。わかりやすいまとめ方は、関係者全員の目線を合わせ、「なるほど、それなら次はこうすべきだ」という共通認識を生み出します。これが、データに基づいた正しい意思決定(データドリブン)の第一歩となります。
調査の目的を達成するための最終プロセス
そもそも市場調査は「新商品のニーズを探る」「既存サービスの課題を見つける」といった目的があって実施されます。データをまとめて終わり、では意味がありません。まとめ方次第で、その目的が達成できるかどうかが決まります。調査結果を次の戦略に活かしてこそ、調査は成功と言えるのです。
R困ったときは、「そもそも、なぜそのような調査を行ったのか」「レポートを見た人にどう反応してもらいたいか」と自問自答してみましょう。
市場調査のまとめ方 5つの基本手順
では、具体的にどのような手順で進めれば、データを知見に変えることができるのでしょうか。マーケティングが初めての方でも迷わないよう、市場調査のまとめ方を5つの基本的なステップに分けて解説します。
1. データの整理とクリーニング
まずは集めたデータを使える状態にします。例えば、Webアンケートで回答が不十分なもの(明らかにふざけた回答や、矛盾した回答)を取り除いたり、表記の揺れ(例:「PC」「パソコン」)を統一したりします。
このクリーニング作業が、後の分析の正確性を左右する重要な下ごしらえになります。
2. データの集計と分析(全体像の把握)
データをきれいにしたら、次は集計です。Excelやスプレッドシートを使い、まずは全体の傾向を掴みます。「はい」が何%、「いいえ」が何%かを見て、次に「Aと答えた人は、Bとも答えているか」(クロス集計)といった分析に進みます。



まずは森(全体)を見てから、木(詳細)を見る意識が大切です。
3. 分析結果から事実を抽出
集計したグラフや表を眺めているだけでは、何も生まれません。そこから何が言えるかという客観的な事実(ファクト)を抜き出します。例えば、「20代女性の購入率が、他の層に比べて30%低い」「満足度と回答した人の7割が、価格よりもサポート体制を重視している」といった、データが示している事実を書き出します。
4. 事実に考察を加える
事実を抜き出したら、次が最も重要な考察です。「なぜ、20代女性の購入率は低いのか?」「なぜ、サポート体制が重視されるのか?」という「Why(なぜ?)」を考えます。ここでは、「競合のA商品は、20代向けのデザインが強いため」「最近のトレンドとして、買って終わりの商品より継続的な安心感を求める傾向があるから」といった、事実の背景にある理由や仮説を導き出します。
5. 次のアクションにつながる提言を導く
事実と考察が出揃ったら、最後は「So What?(だから、どうする?)」への回答、つまり「提言」です。「20代女性の購入率が低く、その理由はデザインにある」のなら、「20代女性向けの新デザインパッケージを開発すべき」といった具体的な行動提案をします。調査結果を次の事業活動に活かすための、具体的な橋渡しです。
伝わる市場調査レポートの基本構成
分析と考察が固まったら、いよいよレポートにまとめていきます。読み手に「わかりやすい!」「なるほど!」と思ってもらうためには、情報を提示する構成がとても大切です。
ここでは、ビジネスシーンで使われる市場調査レポートの鉄板とも言える基本構成を紹介します。



同じ情報でも、伝え方で印象が大きく変わりますよ。
エグゼクティブサマリー(結論の要約)
忙しい上司や役員は、分厚いレポートを最初から最後まで読んでくれるとは限りません。そのため、レポートの1ページ目(あるいは表紙の次)に、「この調査で何がわかったのか」「結論として何をすべきか」という要約を簡潔に記載します。
ここだけ読んでも全体像が掴めるようにまとめるのがコツです。
調査概要(目的、対象、手法など)
次に、この調査が「いつ・誰が・何を目的として・誰に対して・どうやって行ったか」という基本情報を明記します。調査の背景や前提条件を共有することで、読み手は「ふむふむ、こういう前提の調査結果なのだな」と安心して読み進めることができます。
調査結果と分析(グラフや表で可視化)
レポートの「本編」です。ステップ2で集計・分析した内容を、グラフや表を使って視覚的にわかりやすく伝えます。単にグラフを貼り付けるのではなく、「このグラフからは〇〇が読み取れる」という事実を一言添えるのがポイントです。
考察と提言(レポートの核)
先ほどのステップ4と5で考えた「考察(なぜそうなったか)」と「提言(だから、どうすべきか)」をまとめる、レポートの核です。ここが最も読み手が知りたい部分。データに基づいた説得力のある考察と、次のアクションにつながる具体的な提言をしっかり書き込みましょう。
参考資料(ローデータなど)
レポート本編には載せきれなかった詳細なローデータや、使用したアンケートの設問票、ヒアリングの詳しい議事録などを参考資料として巻末に添付します。これにより、レポートの信頼性が高まり、詳細を確認したい人が後から参照できるようになります。
市場調査をまとめる前の準備
闇雲にデータを触り始める前に、確認しておくべきことがあります。まとめ方の手順に入る前に、この準備を怠ると、的外れなレポートになってしまったり、作業が手戻りになったりする危険も。そこで、初心者の方こそ押さえておきたい3つの準備項目を解説します。
調査の目的とゴールを再確認する
まず、「何のためにこの調査をしたんだっけ?」という原点に立ち返りましょう。「AとBのどちらのデザインが良いか決めるため」「新サービスの潜在顧客がどれくらいいるか知るため」など、目的は様々です。
この目的がブレていると、分析の軸もズレてしまい、最終的に「で、何が言いたいの?」というレポートになってしまいます。
レポートの読み手は誰かを明確にする
そのレポートは、誰に読んでもらうためのものでしょうか?現場のマーケティング担当者向けなのか、技術的な知識がない営業部長向けなのか、それとも経営層向けなのか。読み手の役職や知識レベルによって、使うべき言葉の難易度や、盛り込むべき情報の粒度は大きく変わってきます。
定量・定性の調査手法の違いを理解する
調査には大きく分けて2種類あります。アンケートのように数値で全体の傾向を掴む「定量調査」と、インタビューのように言葉で個人の深い理由や背景を探る「定性調査」です。それぞれの特徴を理解していないと、例えば強烈な個人の意見を、あたかも他の多くの人たちもそうだ、という思い込みから、誤った結論を導きかねません。
市場調査を上手にまとめる3つのコツ
基本の手順と構成、準備がわかったところで、さらに一歩進んで伝わるレポートにするための実践的なコツを3つ紹介します。
1グラフ=1メッセージを徹底する
1つのグラフにあれもこれも情報を詰め込むのはNGです。グラフを見た瞬間に「何が言いたいのか」が伝わらなければ、それは良い資料とは言えません。例えば「年代別で差が出たこと」を伝えたいなら、その差が明確にわかるグラフにし、それ以外の余計な情報は削ぎ落とす勇気を持ちましょう。
事実と考察(意見)を明確に分ける
これはありがちで、かつ意識しておくべき非常に重要なポイントです。データが示している客観的な「事実」と、それを見たあなたの「考察(意見や解釈)」は、必ず分けて書きましょう。これらが混在すると、読み手は「どこまでがデータで、どこからがあなたの感想なの?」と混乱します。「事実は〜である。このことから、〇〇と考察できる」と、明確に書き分ける癖をつけましょう。
専門用語を避け、わかりやすい言葉で書く
マーケティングリサーチの世界には専門用語がたくさんあります。しかし、読み手がそれらの言葉を知っているとは限りません。直属の上司なら問題ないことも多いと思いますが、例えば他部署の関係者にも向けた資料であれば、できるだけ専門用語は避けるようにしましょう。



極端な考え方ですが、子どもでも理解できそうか?と念頭に置きながらレポートを作成するとよいでしょう。
市場調査のまとめ方で陥りがちなNG例
最後に、新しくマーケティングを担当するようになった方が、市場調査のまとめ方でやってしまいがちな失敗パターンを3つ紹介します。
データの羅列だけで終わってしまう
まずやってしまいがちなのがデータの羅列です。アンケートの質問項目に沿って、ひたすら集計グラフを並べただけのレポート。「結果はこの通りです」と言われても、読み手は「ふーん…で?」となってしまいます。そこから何が言え、どうすべきかという考察と提言がなければ、それはまとめではなく、データの貼り付けでしかありません。



担当歴が浅く、まだ自信のない方は「こう思ったのですが、ほかに観点があればご指摘いただきたいです」とするだけでも、周りの反応がだいぶ変わりますよ。
自分の仮説に都合の良いデータだけ見せてしまう
調査前に「きっとこうなるはずだ」という仮説を持つことは大切です。しかし、その仮説を裏付けたいがために、都合の良いデータだけをピックアップし、不都合なデータを隠してしまうのはNGです。
たとえ仮説と違っていても、事実を客観的に受け止め、なぜ違ったのかを考えることこそが重要です。
レポート資料を「作ること」が目的になってしまう
調査と分析に時間をかけすぎた結果、レポートの「見た目」をきれいに整えることに全力を注いでしまうケースです。もちろん見やすさは大切ですが、それが目的になってはいけません。レポートはあくまで「意思決定を促す」ための手段。大切なのは中身、つまり考察と提言です。



デザインはAIやテンプレートを活用して、中身に集中しましょう!
市場調査のまとめ方を理解し実務に活かそう
市場調査のまとめ方は、データを整理するだけの作業ではありません。目的を再確認し、正しい手順で分析・考察し、伝わるレポートに落とし込むことで、調査結果は初めて使える情報に変わります。
この記事で紹介した基本の手順と構成、コツを参考に、上司や他部署のメンバーへ納得してもらえそうなレポート作成に、ぜひチャレンジしてみてください。









