メールマーケティングとは何か メルマガとの違いや運用戦略をわかりやすく解説

新しくマーケティング担当になった方にとって、メールマーケティングと聞くと、メルマガを言い換えただけの同じもののように思えるかもしれません。しかし、メールマーケティングは、顧客と長期的な関係を築くための運用施策として、メルマガとは一線を画すものです。

この記事では、メールマーケティングの基本的な意味から、メルマガとの違い、具体的な運用戦略、そして逆効果にならないための注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。

目次

メールマーケティングとは何か

メールマーケティングとは、その名の通り「メールを使ったマーケティング活動」のことです。しかし、単にメールを送ることだけを指すのではありません。顧客リストに対して、メールという手段を通じてコミュニケーションを取り、最終的に自社の利益につなげるための一連の戦略そのものを指します。

メールを使った双方向のコミュニケーション戦略

メールマーケティングの大きな特徴は、顧客の行動や反応に基づいてアプローチを変えられる「双方向性」にあります。例えば、送ったメールを開封したか、メール内のリンクをクリックしたか、といったユーザーの行動データを分析します。そして「クリックした人には次のステップの情報を送る」「開封しなかった人には件名を変えてもう一度送る」といったように、相手の反応に応じたコミュニケーションを取るのが本来の姿です。

なぜ今もメールマーケティングが重要なのか

SNSや動画プラットフォームが全盛の2025年現在でも、メールマーケティングの重要性は変わりません。なぜなら、メールは企業が自社で管理できる顧客リストという資産に対して、直接メッセージを届けられる手段だからです。

SNSはプラットフォーム側の仕様変更やアルゴリズムによって情報が届かなくなるリスクがありますが、メールアドレスは企業が直接保有するデータです。自社が提供するサービスやお役立ち情報に、一度は興味をもった顧客に対し、低コストで運用できる手法として、今なお多くの企業で活用されています。

デジタルマーケティングの中での役割

デジタルマーケティングには、ネット広告、SEO(検索エンジン最適化)、SNS運用など様々な手法があります。その中でメールマーケティングが主に担うのは「顧客との関係構築」と「顧客育成(ナーチャリング)」です。

広告やSEOで集めた新規顧客や見込み客に対し、継続的に有益な情報を届けることで信頼関係を築き、時間をかけてファンや優良顧客へと育てていく役割を担っています。

メールマーケティングとメルマガの違い

マーケティング担当になったばかりの方が最も混同しやすいのが「メールマーケティング」と「メルマガ(メールマガジン)」の違いです。メルマガはメールマーケティングという大きな枠組みの中の一つの「手法」に過ぎません。両者の違いを、3つの視点で見ていきます。

目的の違い:関係構築か情報発信か

メルマガの主な目的は「情報発信」です。企業側からのお知らせ、新商品の案内、セール情報などを、雑誌(マガジン)のように定期的に一斉配信することが中心です。

一方、メールマーケティングの目的は顧客との関係構築と、それによる行動変容です。情報を送るだけでなく、受信者の興味や行動に合わせて内容を変え、最終的に購入や問い合わせといった行動を促すことを目指します。

対象の違い:セグメントか一斉か

メルマガは、基本的に登録者全員に同じ内容のメールを送る一斉配信が主流です。もちろん、最近ではメルマガでも簡単なセグメント(例えば男性向け・女性向けなど)を行うこともありますが、基本は1対多のコミュニケーションです。

対してメールマーケティングでは、顧客の属性(年齢・性別など)や行動履歴(購入履歴、Webサイトの閲覧履歴など)に基づいて対象を細かくグループ分けし、そのグループに最適なメッセージを送ることが前提となります。

手法の違い:自動化か手動か

メルマガは、配信するタイミングで担当者が手動でメールを作成し、配信設定を行うことが多い手法です。

一方、メールマーケティングでは「マーケティングオートメーション(MA)」と呼ばれるツールを使い、「配信の自動化」を行うことが多くあります。例えば「資料請求した人には、3日後に活用事例メールを送り、7日後に導入相談メールを送る」といった一連の流れをあらかじめ設定し、自動で実行させます。

メールマーケティングの主な運用戦略と手法

メールマーケティングには、目的やターゲットに応じて様々な配信戦略が存在します。これらを使い分けることで、メルマガのような一斉配信では実現できない、きめ細やかなアプローチが可能になります。ここでは代表的な4つの手法を紹介します。

ステップメール(シナリオ配信)

ステップメールは、あらかじめ決められたシナリオに基づき、複数のメールを段階的に自動配信する手法です。例えば、商品購入後のサンクスメールを起点として、3日後に「使い方のコツ」、1週間後に「関連商品の案内」を送る、といった流れを自動化します。

顧客の興味や理解度を徐々に引き上げ、関係性を深めていくのに非常に効果的な手法です。

セグメントメール(ターゲティング配信)

セグメントメールは、顧客リストを特定の条件で絞り込んで(セグメントして)配信する手法です。例えば「過去半年以内に購入した顧客」「特定のセミナーに申し込んだ人」「関東地方在住の30代女性」といった条件で分け、そのグループの興味に合わせた内容を送ります。

全員に同じ内容を送るよりも、自分に関係のある情報が届くため、開封率やクリック率が高まる傾向があります。

リターゲティングメール

リターゲティングメールは、特定の行動を取ったものの、最終的なゴールに至らなかったユーザーに、再度アプローチする手法です。代表的な例が、ECサイトでのカゴ落ち対策です。カートに商品を入れたままサイトを離脱したユーザーに対し、一定時間後に「お買い忘れはありませんか?」といったメールを自動で送ることで、購入の最後のひと押しをします。

休眠掘り起こしメール

休眠掘り起こしメールは、長期間にわたって購入やメールの開封・クリックがない顧客に対し、再び関係性を築くために送るメールです。「お久しぶりです」といった挨拶や、特別なクーポン、最新の人気商品ランキングなどを案内し、再度サービスに興味を持ってもらうことを目的とします。

顧客の離脱を防ぎ、LTV(顧客生涯価値)を高めるために重要な施策です。

メールマーケティングのメリットとデメリット

強力な手法であるメールマーケティングですが、当然ながら万能ではなく、メリットとデメリットがあります。どちらも理解した上で戦略を立てることが成功の鍵になります。

メリット:低コストで関係性を築ける

まずあげられるメリットは、コストパフォーマンスの高さです。テレビCMやネット広告に比べ、メール配信にかかるコストは非常に低いのが特徴です。また、一度関係性を築けた顧客は、継続的に商品を購入してくれる優良顧客になる可能性を秘めています。SNSのように情報が流れてしまうのではなく、相手の受信箱に確実に情報を蓄積できる点も、関係構築において有利に働きます。

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他の施策とも共通するMAツールやシステムの費用、人件費などを除けば、実質ゼロ円で可能です。

デメリット:手間がかかり逆効果のリスクもある

デメリットとしては、成果が出るまでに時間と手間がかかる点が挙げられます。特に、効果的なシナリオを設計したり、顧客データを分析してセグメント分けを行ったりするには、専門的な知識と運用工数が必要です。

また、配信頻度やタイミング、内容がユーザーのニーズとずれていると、簡単に迷惑メールと判断されたり、配信停止されたりする逆効果のリスクも常に伴います。

ネット広告や営業との違い

ネット広告は、まだ自社を知らない不特定多数の人に認知してもらうのに適した手法です。一方、営業は、確度の高い見込み客に1対1で深くアプローチできますが、コストが非常に高くなります。メールマーケティングは、その中間に位置します。1対1に近いパーソナライズされたアプローチを、広告よりもはるかに低コストで、営業よりもはるかに多くの顧客に対してプッシュできる点が、他の手法との大きな違いであり価値です。

メールマーケティングの具体的な運用ステップ

では、実際にメールマーケティングを始めるにはどうすればよいでしょうか。基本的な運用の流れを、5つのステップに分けて解説します。

ステップ1:目的とKPIの設定

最初に行う重要なステップです。何のためにメールマーケティングを行うのか、目的を明確にします。例えば「新商品の売上を10%上げたい」「既存顧客の離脱率を5%下げたい」「セミナーへの申込者数を増やしたい」など、具体的に設定します。

目的が決まったら、その達成度を測るためのKPIも決めます。代表的なKPIには、開封率、クリック率、コンバージョン率などがあります。

ステップ2:配信リスト(ターゲット)の準備

次に、誰にメールを送るのか、配信リストを準備します。Webサイトのフォームから登録されたリスト、過去に商品を購入した顧客リスト、名刺交換したリストなど、様々なものが対象になります。ただし、この後のステップでも解説しますが、必ず「メール配信の許諾(オプトイン)」を得ているリストでなければなりません。また、目的に合わせてリストを整理し、セグメントできる状態にしておくことも重要です。

ステップ3:コンテンツの企画と作成

誰に(ターゲット)何を(目的)伝えるかが決まったら、具体的なメールの内容(コンテンツ)を作成します。ターゲットはどんな情報なら喜んでくれるか、どんな課題を解決したいかを考えます。思わず開封したくなる件名、読みやすく分かりやすい本文、そしてメールを読んだ後に起こしてほしい行動(購入ボタンのクリック、資料請求など)へ導くCTA(Call To Action)の設計が非常に重要です。

ステップ4:配信と効果測定

コンテンツが完成したら、メール配信ツールやMAツールを使って配信を実行します。ターゲットが最もメールを読みやすい曜日や時間帯(例えば、ビジネスマン向けなら平日の午前中や昼休みなど)を考慮して配信タイミングを設定するのも効果的です。配信後は、必ず結果を測定します。ステップ1で設定したKPI(開封率、クリック率など)のデータがどれくらいだったかを正確に把握します。

ステップ5:分析と改善

データを集めたら、それで終わりではありません。なぜその結果になったのかを分析し、次回の改善につなげることが重要です。開封率が低かったのであれば件名に問題があったのかもしれません。クリック率が低かったのであれば本文の内容やCTAの配置が悪かったのかもしれません。A/Bテストを繰り返し、継続的に改善していくことが成果への近道です。

運用前に知るべき法律と注意点

メールマーケティングは、一歩間違えると迷惑メールと受け取られてしまいます。それだけでなく、法律違反として罰則の対象になる可能性もあります。運用を開始する前に、知っておくべきルールを解説します。

特定電子メール法とは

特定電子メール法(通称:迷惑メール防止法)は、広告・宣伝目的のメールを規制する日本の法律です。この法律では、送信者に様々な義務が課されています。例えば、原則として同意のない相手へのメール送信を禁止していたり、メール本文に送信者の氏名や住所、配信停止の連絡先を明記することを義務付けていたりします。これに違反すると、罰金や業務改善命令の対象となるため、必ず内容を理解しておく必要があります。

オプトイン(事前承諾)の重要性

特定電子メール法で最も重要なルールの一つがオプトインです。これは、メールを送信する前に、受信者から「メールを送っても良いですよ」という事前の承諾を得なければならない、という原則です。Webサイトのフォームに「メールマガジンへの登録に同意する」といったチェックボックスを設け、ユーザー自らがチェックを入れることで同意を得るのが一般的な方法です。名刺交換をしただけでは、自動的にオプトインを得たことにはならないため注意が必要です。

オプトアウト(配信停止)の明記

オプトインとセットで重要なのがオプトアウトです。これは、受信者がいつでも簡単にメールの配信を停止できる仕組みのことです。メールマーケティングを行う際は、メール本文の分かりやすい場所(通常はフッター部分)に、配信停止用のリンクや手続き方法を必ず明記しなければなりません。配信停止の依頼があった場合は、速やかにリストから除外する義務があります。この仕組みがないと、迷惑メールとして通報される原因になります。

メールマーケティングの効果を高める最新トレンド

基本的な運用ステップに加え、近年はメールマーケティングをさらに効果的なものにしています。最後に、メールマーケティングの効果を一層高めるためのトレンドを3つ紹介します。

AIによるパーソナライズ

AIの進化は、メールマーケティングを大きく変えつつあります。AIが顧客一人ひとりの過去の購入履歴、Webサイトの閲覧履歴、メールの開封時間などを分析します。その結果に基づき、その人が最も興味を持ちそうな件名や商品を自動で生成したり、最も開封しやすい最適なタイミングで配信したりすることが可能になっています。これにより、担当者の勘や経験に頼っていた部分が自動化され、より高度な1対1のコミュニケーションが実現しています。

動画(YouTubeなど)の活用

テキストや画像だけでは伝えきれない情報やサービスの魅力を、動画を使って伝える手法も一般化しています。メール本文にYouTubeなどの動画を埋め込んだり、動画のサムネイル画像を配置してクリックを誘導したりします。動画はテキストに比べて情報量が多く、視聴者の感情にもアプローチしやすいため、商品の使い方やお客様の声などを紹介する際に活用すると、クリック率やコンバージョン率の向上が期待できます。

インタラクティブメール

インタラクティブメールとは、受信者がメールを開いたその画面で、何らかの操作(インタラクション)ができる動的なメールのことです。例えば、メール内でアンケートに回答したり、複数の画像をスライドさせて商品を見たり、カレンダーから予約日時を選択したりできます。従来のように、メールからわざわざWebサイトに移動する必要がないため、ユーザーの手間が省け、より高い反応率や快適なユーザー体験を提供できる技術として注目されています。

メールマーケティングとは運用戦略で価値を高める手法

メールマーケティングとは単なるメール配信ではなく、顧客との信頼関係を築くための戦略的なアプローチです。

メルマガとの違いは、一斉の情報発信か、個別に最適化されたコミュニケーションか、という点にあります。適切な運用戦略を立て、ステップメールやセグメント配信などの手法を組み合わせることが重要です。法律を守り、逆効果にならないよう注意は必要ですが、正しく運用すればネット広告とは違う深い関係を顧客と築けます。

この記事で解説した基本を参考に、まずは小さなステップから始めてみましょう。

この記事を書いた人

【経歴】
2015年~|医療機器メーカー勤務。
2018年~|時間とお金に縛られない生き方を目指し、マーケティングやブランディングを実践している会社に転職。
2022年~|個人事業主として独立。toB、toC問わず、複数の会社のマーケティングやブランディングを支援中(←今ココ)

【資格】
ブランドマネージャー1級、SEO検定1級、PRプロデューサー

【趣味】
ねこと遊ぶこと、囲碁、ゲーム、ダーツ

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